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冷える身体、暖める心(前篇)

週末までに書き上げるといったな
すまん、あれは嘘だ
ということで木の下に埋まってきます
後編は火曜予定です

言い訳させてください
こんなに長くなるとは思わなかった

ーー
 プロローグ
二年前の夏から、私はいつだって一人の女性のことを考えていた。時には胸が痛んで、ほかのことが手につかないほどだった。それまでこういったことに疎かった私には、初めはそれがなんなのかわからなかった。虎姫のみんなに相談してみたこともあったが、その時は全員に爆笑されてしまった。淡はとくにひどかったな。いつまでもゲラゲラと笑い転げていて、しまいには笑いすぎて呼吸困難になりかけていた。その時の私は真剣に悩んでいるのになにがおかしいのかと少し怒ってしまったが、今の私があの場所にいたとしたら、私も同じく笑っていることだろう。私としたことがこんな簡単なことに気づかなかったとは。
 私はあの日、恋に落ちたのだ。今ならはっきりとわかる。私は彼女が好きだ。私は松実宥を愛している、この世の誰よりも。

 一章
 愚かなことに、私はその思いに気づかないまま無為に日々を過ごしていた。受験生として普通に勉強し、普通に大学受験をし、卒業した。心にわだかまりを感じながら。
 大学生活が始まっても、わだかまりは解けることはなかった。それどころかむしろ日に日に大きくなっていった。それに比例するように、宥のことを考える時間も。
 宥のことを考えていない時間のほうが少なくなってきたころだっただろうか。私は運命の再開を果たした。

 大学に入学して二週間と少しがたった。先週まではしきりに勧誘を行っていたサークルも、まだ勧誘を続けてはいるもののだいぶ落ち着いてきた。ぼちぼち新入部員も集まり、歓迎会の準備も始めているのだろう。
私はいまだどこのサークルにも入っていない。弓道とアーチェリーは見学はしたのだが、雰囲気が合わなかった。そろそろ入るサークルを決めなければ入る機会を逃してしまうななどと考えながら歩いていると、一つのポスターが目に入った。
麻雀サークル、か。ここの麻雀サークルは決して強豪ではなかったと思う。照は麻雀の推薦で強豪校へと進んだが、私は一般入試でインカレでは耳にしたことのないこの大学に来た。スカウト自体は私にもちらほら来たのだが、私はどうもそんな気にはなれなかった。やはり準決勝が原因だろうか。もっとも、だからこそサークルでまったりやるのも悪くないかもしれないな。本気で麻雀を続ける気にはなれなかったが、かといって麻雀自体が嫌いになったわけではない。息抜き程度にやるのも高校時代とは別の楽しみがあるかもしれないな。
そう思い、私はポスターに書いてある教室へ向かった。どうせ今日は予定がない、可能な限り早い方がいいだろう。足早に階段をかけ、曲がり角を曲がる。
その時、私は不注意のせいで人にぶつかってしまった。
「あっ、すいません。大丈夫ですか?」
 私は女性としてはかなり身長がある。成人男性の平均よりあるくらいだ。武道で鍛えていたおかげもあり筋力にもそこそこの自信はある。しかしそのために、こういった衝突時では余計な衝撃を生んでしまうことがある。現に今だって私とぶつかった小柄な女性は倒れてしまった。
「いえ、こちらこそすいません。急いでいたばかりに」
 謝り返すその声には、不思議と聞き覚えがあった。
「あ、あの。ところで、麻雀部の部室って」
 体制を立て直しながら彼女は続けた。そして崩れた前髪を整えると、かわいらしい顔があらわになった。
「どこかわかりませんか?」
 その顔は、私が長い間思い続けていた顔そのものだった。

 二章
 結局私は見学もせずそのまま麻雀部へと入部した。彼女と一緒にいればなにかがわかると思ったのだ。実際、彼女と会った翌日からしばらくの間は症状が治まった。しかしそれも束の間、気が付くとそれまで以上に彼女が頭から離れなくなっていた。
 サークル自体は予想していた通り、まったりとしたものだった。出席義務もなく、空きコマに集まって麻雀を打って暇をつぶそう程度のものらしい。大会にもでたことはなくこれからも出るつもりもないらしい。それでいて部員はそこそこの数がいて過去問をもらうのには困りそうにない、今の私にはかなり好都合なところだった。出席義務がないので半ば幽霊部員化している人も多いというかそれが大半らしいし、私もそれくれいのつもりでここに入部した。だというのに、私は時間を見つけては部室に来ていた。別に麻雀をしたい気分なわけでもなく実際に行ったところでほとんど麻雀は打たないのだが足しげく部室に通っていた。ではなんのために向かっているのか。最初は私にもわからなかった。ただ、めったに来ない彼女の姿を見かけることができたときは心が安らぐような感じがした。

 入部して一月ほどがたったころ、私は初めて松実さんとここで麻雀を打つ機会をもらった。彼女のうち筋は昔と変わらなかった。彼女の人柄そのもののような温かさを感じた。あの時はそんなことを気にしている余裕もなかったが、なるほどなかなか面白い打ち方をする。
「癖、直したんですね」
そんなことを考えながら打っていると、対面から声がした。
「……えっ」
「あれ?勘違いでした?」
「いや、確かに準決勝以降直す努力はしたが、そういうことでなく」
……覚えていてくれた?私の中で、何かが弾ける音がした。
「あっ、もしかして私のこと忘れてしまったんですか?」
「そんなことはない!」
「っ!?」
いかん、つい大声を出してしまった。松実さんを驚かせてしまったな。しかし、私としたことがなぜ我を忘れてあんな声を。
「すまない、驚かせてしまったか」
「いえ、大丈夫です」
「君のことはよく覚えているよ、松実さん。私としても印象深かったからね」
「あ……」
どうしたんだろう、松実さんの顔が赤い。なにか小声でつぶやいたようだが、小さすぎて私にはなんといってるかまではわからなかった。

 対局が終わると、松実さんが話しかけてきてくれた。
「あ、弘世さん。少しお話ししませんか。お時間がよろしければですが」
「私でよければかまわないが」
「よかった。じゃあここじゃなんですし喫茶店にでも」
なんの話だろうか。心のどこかで弾むものを感じながら私は彼女と肩を並べ歩いた。
「あ、ここです」
着いたのは駅前の商店街だった。喫茶店?
「ああ、わかりにくいですよね。こっちです」
戸惑う私を見ると彼女はそう続け、店と店の間の空間に歩を進めた。依然として戸惑いながらも彼女に続く私。
 数歩歩くと、通りからは見えなかったが喫茶店らしいおしゃれな様相をした店の中に入り込んでいた。私たちの姿を認識した店員が案内にくると、彼女は指で人数を示した。
「看板もないし、通りからじゃわかりませんよね。私もおすすめされて初めて来たときはグーグルマップ片手にどこなんだろうって迷いました」
「なるほど、だがいい雰囲気の店だな。穴場といったところか」
「そうなんですよ。通りから少し離れてるから騒がしくもないし」
 そんなことを話していると、店員が立ち止まり、着席を促した。ご注文が決まりましたらお声をかけてくださいと戻っていく。
「なに頼みます?」
「そうだな……、いや、その前に一ついいかな」
「なんです?」
「私をここに誘った理由を教えてもらってもいいか」
「ああ、とくにはないです」
「え?」
「ただ弘世さんとお話がしたくて。ご迷惑でしたか?」
「い、いやそんなことは」
心臓の鼓動が早くなるのを感じる。なんだ、なんに焦ってるんだ私は。
「せっかくこうして再会できたんですし、仲良くなれればなって、ずっと思ってはいたんです。でもなかなか機会がなくて」
「そ、そうか」
「奈良から離れてこっちまで来たから知り合いが一人もいなくて心細くて。そんなときに弘世さんに出会って」
「出会ってといえば、この前はすまなかったな。痛くなかったか?」
「そんな、私の方こそ不注意で」
「いや、あれは私が悪いよ。危うく怪我をさせてしまうところだった」
「謝る必要なんかないです。私が悪いんです」
「いや私が」
「私が」
「いや」
「……ふふっ」
責任のかぶりあいになったところで、急に彼女が笑い声をあげた。
「弘世さんって、意外と面白い人なんですね」
面白い?
「あの、弘世さん」
少し真剣な面持ちで切り出す。
「よければ、またこんな風にお誘いしてもよろしいですか?」
「ああ、喜んで」
そう応えると、彼女は明るい笑みを浮かべた。
「よかったぁ。あ、じゃあ連絡先とか」
「ああ、ラインでいいかな」
バッグからスマートフォンを取り出しアプリを起動する。
「はい」
QRコードを表示すると、彼女は読み取りを始めた。
「あっ、読み取れました。ふふ、友達が追加されました、かあ。ねえ弘世さん」
「なんだ?」
「私と、友達になってもらえますか?」
「……もちろんだ。ただ一ついいかな」
「なんですか?」
「同学年なんだ、ため口でいい。友達なんだしな」
「……うん!よろしくね弘世さん」

 こうして私たちは友達になった。

 三章
 その日から、私たちは二人で出かけることが多くなった。以前のように闇雲に部室へ足を運ぶことはなくなり、晴れて幽霊部員となった。相変わらず胸の痛みは治まることを知らなかったが、彼女といるときだけはそれもなくなり幸せな時間を過ごせていた。彼女を想うと胸の痛みとともにどこか幸せな気持ちがした。しかしながら、依然として当時の私はそれがなんなのかはわかっていなかった。彼女を想うこの気持ちが恋だと知ったのはそれから二月ほど経った日のことだった。

 そろそろ春物では少し暑さを感じ始める時期になった。そこで本格的に夏が来るまでに夏物がほしいなと話していたら、松実さんから一緒に買いに行かないかと誘いがあった。どうもこちらの地理に詳しくないため店の場所が知りたいらしい。断る理由もないので休日に行く予定をたて、今は待ち合わせの場所で彼女を待っている。
「ごめんなさい弘世さん、待った?」
私の姿を目にとめると駆け足で私の前まで来た彼女は少し呼吸を乱しながら謝罪した。
「いや今来たところだ。それにまだ待ち合わせまでは十五分ほどある。遅刻したわけじゃないし謝る必要はない」
腕時計で時刻を確認しつつ答える。
「でも待たせたのは事実だし」
「待ったのは私が早く着きすぎたからだ。むしろ君に引け目を感じさせているのなら勝手に早く着いた私の方に責任がある」
「ふふっ。前から思ってたけど、弘世さんて結構ガンコだよね」
「そうだろうか」
「悪い意味じゃなくてね。真面目っていうか、律儀っていうか。委員長さんみたいな」
「真面目も何も当たり前のことをしているだけなんだがな」
「自然にできるのが偉いと思うよ」
「っ」
なぜだろうか。松実さんに褒められるとほかの誰からよりもうれしい。
「そ、それよりも今日の目的を果たそう」
「そうだね。いいの見つかるといいな」

「あ、これなんか似合うんじゃないかな」
「すこしかわいすぎないか?」
「そんなことないよ。弘世さんかわいいし大丈夫」
「かっ、かわいい!?」
驚きのあまり声が裏返ってしまった。いきなり何を言い出すんだ。心臓の鼓動が早まるのを感じる。
「うん、とってもかわいいよ」
真顔ではっきりと言わないでくれ恥ずかしい。……かわいい、か。子供のころに言われて以来な気がする。高校時代はかっこいいとかクールとかそっちばかりだったな。別に言われたいわけでもないし、自分でもいわゆるかわいい系ではないことを自覚しているのでかまわないのだが。かわいいか。
「ありがとう。素直に受け取っておくよ。あ、でもこれは着れそうにないな。サイズがない」
「あ、そっか。弘世さん背高いもんね。うらやましいなあモデルさんみたいで」
「こんなに高くても困るんだがな。松実さんくらいが一番女性らしくてかわいいと思うよ」
「そうかな?私はもうちょっとほしいくらいなんだけど」
「まあそこらへんは隣の芝は青いってことだろう。お、これなんか松実さんに似合うんじゃないかな」
「わあ、かわいい。ちょっと試着してみるね」
そういって彼女は試着室の中に入った。松実さんならいろんな服を着こなせるのだろうな。サイズに困ることもないし、かわいらしいし。
「どうかな?」
そういって私の前に見せた姿は、私の予想を超えた可憐さだった。
「似合ってるよ」
「よかった。じゃあこれにしようかな」
弾んだ声で試着室の扉を閉めて着替え始める。私もあんな風にかわいい服を着こなしてみたいものだ。と思いつつ自分の服を物色する。
「これいいな、大きいサイズあるだろうか」
「店員さんに聞いてみる?」
「そうだな。って、なんだその大量の服は」
着替え終わったらしい松実さんは膨大な量の服を抱えていた。しかも夏物とは到底思えないものまで。
「夏物を買いに来たんだよな?」
「だって寒いし……」
ああ、そういえば極度の寒がりだったな。どうやら彼女は私とは違った問題を服選びに抱えているようだ。

「買いすぎちゃったかな?」
大量の袋を抱えながら言う。
「君ならそれくらい必要そうだし、いいんじゃないか?」
「そっかあ、そうだよね」
満足そうにうなずく松実さん。
「今日も楽しかった。ありがとね、いつも付き合ってくれて」
「私も楽しかったよ。こちらこそありがとう」
「……ねえ、弘世さん」
さきほどまでのまったりとした雰囲気から、緊張の混じった表情で呼びかける。
「どうした?」
「あの、その」
「?」
なんだろう。言いにくいことなのだろうか。
「えっと、……名前で呼んでもいい?」
「名前?」
「うん。もうだいぶ一緒に遊んでるのに、よく考えたらまだ苗字でしか呼んでなかったから。ダメ?」
なんだ、そんなことか。
「ああ、かまわないよ。それなら私もそうさせてもらっていいかな」
「うん!もちろん」
ぱあっと明るい笑みを浮かべるまつ、宥。
「これからもよろしくね、菫ちゃん」
……!
「ああ、こちらこそ。宥」

初めて宥に名前で呼ばれた。ただそれだけのことですら、私の胸は高まった。この時から私は自分の気持ちに気づき始めた。
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